6-5 電子マニフェスト制度(広域情報管理センター)
厚生省では、1983年度から2年間「情報管理システム導入のための指針(案)の作成」や「近畿地区をモデルとした概略設計のケーススタディ」の基礎調査を行い、1985年度から2年間で近畿地区をモデルケースとしたパーソナルコンピュータ向けのソフトウェアの開発を行った。(「フェニックス計画に対する自治労の対応と課題」全日本自治団体労働組合、自治労近畿地連、1988年11月)
1985年12月11日の自治労要請に対する厚生省の回答でも、「産廃の広域監視に対する当面の具体策」として、「本地域をモデルケースとして下図に示すようなイメージのシステムを整備し、センター及び府県市間は情報管理センター(公益法人とすることを検討)を通じてオフラインで結ぶ方向で具体的な方策の検討を近畿ブロック産業廃棄物対策推進協議会を中心に進めるよう求めていく。」と記載されている。
1988年3月に、厚生省は「産業廃棄物情報管理センター構想について」をまとめた。また試行をふまえて、近畿でのシステムについては、1990年5月に「近畿圏産業廃棄物情報管理方策検討会報告書」、1992年9月に「近畿圏廃棄物情報管理ネットワークについて(中間報告)」としてとりまとめられた。
1990年には紙ベースの仕組みとして、特別管理産業廃棄物に対して、
マニフェスト制度が導入され、1997年よりすべての産業廃棄物へと拡大がされた。ただし、紙のマニフェストの場合には、そのトレース・管理が困難であり、近畿でモデルケースとして試行がされてきたコンピュータ通信による「電子マニフェスト」の普及が求められた。
導入のスピードは遅いものの、徐々にその導入率が高まり、2017年に産業廃棄物の取り扱いにおいて、電子マニフェストが採用されている割合が50%を超えた。環境省では2018年に
ロードマップ(PDF)を定め、2022年の目標として70%をめざし、システムの改良を含めて利用拡大を進めている。
産業廃棄物がどこでどのように処理されているのを排出者が把握することは難しく、その先で不適正な処理が行われてしまっている可能性も否定できない。特に2000年ころまでは不法投棄の規模も件数も大きく、一部の甚大な被害を生じる事例では、その排出者をたどってその責任を問うことが進められた。
〇資料
産業廃棄物情報管理システム開発調査についての検討 大阪市環境事業協会 1988
廃棄物情報管理システム 厚生省水道環境部
近畿圏産業廃棄物情報管理方策検討会報告書 近畿圏産業廃棄物情報管理方策検討会
1990.05
近畿圏廃棄物情報管理ネットワークについて(中間報告) 1992/9/17
〇社会の流れ
・ 1990年マニフェスト制度(特別管理廃棄物)
・ 1990年豊島不法投棄摘発
・ 1992年近畿圏産業廃棄物情報管理ネットワーク
・ 1997年マニフェスト制度の産業廃棄物全体への拡大
・ 1998年電子マニフェスト制度
・ 1999年青森岩手県境不法投棄強制捜索、2000年逮捕
参考 第162回国会 衆議院 環境委員会 第5号 平成17(2005)年4月5日
○小畑参考人 ただいま御紹介をいただきました小畑です。
NPOで環境問題にかかわっている、そういう立場から意見を述べたいと思います。
よく、環境は祖先から譲り受けたものではなく子孫から借り受けたものであると言われますが、私たちももうこの辺で不法投棄等による廃棄物による環境汚染を防止して、きれいな地球環境を取り戻し、次の世代に申し送るべきときに来ているのではないかなというふうに考えます。産業廃棄物による不法投棄、不適正処理を本当になくするには、今回改正されます産廃の規制、罰則強化だけでなく、産廃の流れをガラス張りにする施策を考えていただきたいという立場で意見を述べたいと思います。
産業廃棄物の現状ですけれども、産業廃棄物行政につきましては、法律的には、最近だけでも、平成九年、十二年、そして十五年、十六年、本年と改正を重ねて整備されてきております。ところが、不法投棄事件や不適正事例は後を絶たず、平成十一年には青森・岩手県境で八十二万トンという国内最大規模の不法投棄事件が発生し、昨年には岐阜県で五十万トンを超える不法投棄事件が発生しており、その他不法投棄、不適正処理は数え切れないほど発生をしております。
このように、法整備が進んでいるのに不法投棄、不適正処理が多発するのは、法の仕組みと産業廃棄物の実務の間に乖離があるのではないかと考えられます。法改正による規制、罰則強化だけでは不法投棄や不適正処理の防止は限界に来ているのではないかなというふうに感じます。
産業廃棄物に対する法律の整備は進んでいるにもかかわらず、不法投棄、不適正処理が続出しますのは、排出量に見合った処理・処分施設が不足しているために、産業廃棄物処理システムからオーバーフローした廃棄物が不適正処理につながっているのではないかと考えます。産業廃棄物処理の実態が正規ルートと地下組織に分かれて処理されているのは、中央環境審議会に出されました資料、図一を参考にしていただきたいんですけれども、そこからも明らかであって、問題は、年間四億トンも排出される産業廃棄物が正規ルートでどれだけ処理され、正規ルート以外にどれだけ流れているのか不明なところであります。この実態の解明は喫緊の課題であり、そのための対策を早急に行うべきではないかと考えております。
廃棄物の適正処理は、実態を正確に把握した上で、その上に立って必要な処理施設の設置や不法投棄防止の対策を実施すべきであるというふうに考えます。ところが、産業廃棄物の実態把握につきましては遅々として進んでおりません。
産業廃棄物の実態把握についてのこれまでの経過について触れますと、産業廃棄物の実態把握についての必要性は、今から二十四年前に、昭和五十六年、フェニックス法案がこの国会で審議をされたときに問題にされて、当時の厚生大臣が実態把握の約束をされましたが、なかなか進まず、その後、フェニックス計画は十年ほどたって稼働を始めたんですが、独自に努力して産廃の流れをつかむ対応をして、この間来ているところであります。
その後、平成三年の廃棄物処理法改正で有害廃棄物対策として特別管理廃棄物が制度化され、同時に、特別管理産業廃棄物についてはマニフェスト制度が導入されて、排出事業者にはマニフェストの報告義務、それから、許可業者にはマニフェストを扱った場合、実績報告が義務づけられて、実態把握に向けて前進したと思っていたんですが、これは有害廃棄物に限定されておりましたので、全体の実態をつかむところまでは行かずに終わっております。
平成九年に全産業廃棄物にマニフェスト制度が導入され、マニフェストの電子化も同時に採用されたため、実態把握に向けて大きく前進したと思っていたんですが、それが平成十二年八月の環境省の附則によりまして、経過措置としてマニフェストの排出事業者報告が一時猶予をされて封印がされております。それからまた、許可業者の業の実績報告も廃止されてしまったために、逆に、行政の産業廃棄物の実態把握については後退して今日に至っております。
産業廃棄物の実態が非常に不透明であるために、残余容量、処理量の関係でも不明な点が見られます。資料一を見ていただきたいんですが、環境省は、産業廃棄物の排出及び処理状況を発表されている中で、残余容量と最終処分量を年度ごとに出されているのですが、それがうまくかみ合わないという問題が起こっております。
本来ならば、年度当初の残余容量にその年度の新規開設されます最終処分場の受け入れ容量を足しますと、その年度の総受け入れ容量でありますが、例えば平成九年度を見ていただきますと、表にもありますように、その年度の左端のAは、四月一日の残余容量は二億七百六十七万トンであります。その年度の新規受け入れ量、Bの四千九百六万九千トンを足しますと、年度の総埋立量として、C、二億五千六百七十三万九千トンになるんですけれども、そこからその年度に最終処分されたDの六千七百万トンを引きますと、データではその年度末の残余容量は一億八千九百七十三万九千トンになるはずですが、環境省の発表されておる左端の、同じ欄の下の方の年度末の残余容量は二億一千百五万九千トンで、約二千百万トン近くが増加をしております。残余容量が増加しているということは、増加分が最終処分されずにどこかへ消えたということで、その解明が待たれるところであります。
平成十年、十一年も二千万トン以上が不明になっております。それから二年間は年間の新規受け入れ量のデータがありませんので具体的な数字はわかりませんが、四千万トン以上最終処分されているのにほとんど残余容量が減っていないというのは、新規受け入れ量は四千万トンもなくて二千万トン以下だと思いますので、ここでも二千万トンぐらいの数字が合わないという状況になっております。そして、一番下の欄の平成十四年度では、ここは新しく年間新規埋立量のデータがありましたので、それを当てはめますと、ここでは三千百十四万七千トンの数字が合わないという、データ上はそういう数字になっております。
二千万トン、三千万トンという数字は、年間処分量の半分近くの数字でして、平成十四年度の三千百万トン余りという不明な数字は、これは年間処分量四千万トンの七七・九%に当たる大変大きな数字の食い違いであります。このような数字をそのままにしておきますと、国民の産廃に対する不信はなかなか払拭できないのではないかというふうに考えます。済んでしまったことは今さら調べようがないと思いますけれども、今後はやはりこういうことがないように、早急に実態把握をして、その上に立った正確なデータを明らかにしていくことが重要ではないかなというふうに考えます。
そのための方向として、産業廃棄物の適正処理につきましては、まず産業廃棄物の処理の流れを的確に把握できる体制の確立が急務であると考えます。そのためにはマニフェストの電子化を即時実施していただきたいと思います。今や紙のマニフェストはほとんど機能しておらず、特に業者間のところでは機能しておらず、岐阜県椿洞のマニフェスト偽造は、これが電子マニフェストであったならばもっと早い段階で不法投棄が発見されたというふうに思います。そういう意味で、一日も早いマニフェストの全電子化が望まれるところであります。
しかし、マニフェストの電子化は、七年たちましてもいまだに二%少しという状況ですので、なかなか排出事業者全体のマニフェストの電子化というのは非常にこれから時間がかかると思いますので、そういうことであれば、それにかわる実態把握ができる体制の確立を急いでいただきたいというふうに考えます。不法投棄の防止には、あと何年も実態把握を待っているような余裕はありませんので、マニフェストの電子化が達成されるまで、何とか代替案を考えていただきたいというふうに思います。
一つの案として、図二にお示ししましたように、マニフェストの制度が完全に電子化されるまで、それにかわる情報徴収方式として、紙マニフェストの報告を復活させて、その報告を排出者がするのはいろいろと零細等の関係もあって無理だということであれば、その報告を、紙マニフェストを受け取った収集運搬あるいは処理の各許可業者が、情報処理センターに電子で報告するという方式を一度検討していただきたいというふうに思います。
産業廃棄物の実態把握ができれば、それに基づいて必要な量の産業廃棄物の処理施設の基盤整備を実施すべきであると考えます。それも、特に産業廃棄物は首都圏、近畿圏で日本全体の半分近くを排出されているわけですから、ブロック単位、特に首都園、近畿圏の施設整備計画を作成して実施すべきであるというふうに考えます。
また、産業廃棄物のデータが情報センターにすべて蓄積されるようになりますと、そのデータに基づいて、不審な箇所がないか、その解析を行えば、不法投棄、不適正処理防止体制の確立も前進すると思います。
もともと廃棄物事業は、マイナスの取引で、個々のチェック機能が働きにくいという特異性を持っています。そのため、廃棄物事業は競争経済になじみにくい要素を持っております。廃棄物の性質上、自分の手元から早く離れてほしい、また、その料金も、個々のチェック機能が働きませんので、できるだけ安い方がいい、安ければ一円でも安い方がいいという方に流れ、産業廃棄物事業では悪貨が良貨を駆逐する現象が起こったというふうに言われております。
産業廃棄物事業を適正に進めるためには、個々の排出事業者以外が、追跡調査システムの確立など、個々のチェック機能の不足分をフォローする体制をつくることが重要ではないかと考えます。
廃棄物行政については、安かろう悪かろうのコスト競争に流されることなく、地球環境あるいは生活環境保全の立場から、行政が産業廃棄物の一元管理ができるようなシステムを考え、不法投棄、不適正処理がなくなるまで行政も積極的にかかわって、適正処理の確保に努めていただきたいということを最後に申し述べまして、意見の陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。
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